「わたしとHIV in 福岡」

vol.1「想像よりもずっと」by HS

突然だった。ある晩お風呂に入っていると、スマホがいつもと同じ軽快な音を鳴らす。

額の汗をぬぐいながらスマホの画面を確認すると、つい最近セックスをした友人からの連絡だった。

久しぶりだなー、と思いながら画面を開く。いつもは1文か2文の短いやり取りしかしないその友人から、珍しくスクロールが必要なほどの長文が送られてきていた。

これは只事ではないな、と思い湯船の中で姿勢を正してスマホの画面を注視する。

そこには「検査をした結果HIV陽性であったこと」「直近でセックスをした僕にも感染している可能性があること」「セックスした日から3ヶ月をあけて検査を受けて欲しいこと」が書いてあった。

それらを読みながら、僕の中では様々な感情が渦巻く。そうかあ大変だなとか、もし自分も感染していたらどうしようとか、3ヶ月あけるとなるとその間おちつかないなとか、そんなことを考えていた。

でもまずは、打ち明けてくれた友人へのケアが先だと感じ、僕は返信する文章を打った。

打ち明けてくれて嬉しかったこと、自分を最優先して欲しいこと、希望通り検査は受けようと思っていること、結果が出たら知らせること、U=Uというものがあることなどだった。

それらを送る頃には僕は湯船で茹蛸のようになっていたので、いそいそと風呂から出てベッドに横になり、改めて考えた。やはり不安だ。感染する確率がそう高くないことはわかっていたけれど、もし感染していたら、僕は彼を許せるだろうか。今まで通り仲良くしていられるだろうか。

正直、自信がなかった。それでも、検査を受けるまでの3ヶ月間の間、これからも仲良くしたいなという気持ちは持ち続けていた。

そうして迎えた検査結果の告知。あんなに緊張したのは大きなホールでイベントの司会をした時以来だった。

結果、僕は感染していなかった。陰性だ。肩の力がどっと抜けた。安心した。でもそれと同時に、陽性だと告げられた友人の気持ちを思うと胸が痛かった。

それから僕はその友人と仲良くい続けることはできているし、彼自身もHIVと向き合って生きていくことを選べている。その様子を見た時に初めて「よかった」と思えた。

僕が想像していたよりもずっと身近だったHIV。これを読んだ人が、他人事ではなくてすぐ近く、自分の身の周りで起きていることなのだと感じてくれると嬉しい。そう思いこの文章を書くことを決めた。

想像していたよりも、
ずっと身近で起きている。
それを覚えていて欲しい。

HS:HIV陽性者の友人・30代・ゲイ男性・「勇者の部屋」産業カウンセラー


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